祝・20周年&3度目の武道館公演開催直前企画 Base Ball Bear 小出祐介 Interview part.1

Base Ball Bearが今夏開催した対バンツアー『Base Ball Bear TOUR「LIVE IN LIVE~I HUB YOU 3~」』の最終公演=8月26日のZepp Osaka BaysideでのASIAN KUNG-FU GENERATIONとの2マンライブリポートを現在発売中のTalking Rock!22年11月号に掲載! その記事の最後に記したように、後日小出君とオンラインで、その当日の感動と10月12日に配信リリースされた新曲「海になりたい part.3」についてと、11月10日に行われる3度目の日本武道館公演に向けての意気込みをお聞きし、リポートの後にコメント掲載するつもりでしたが、ガッツリと話し込んでロングインタビューになってしまい(苦笑)、ページが全然足りなくなったので、このホームページに2度に分けてアップします! まずはインタビューpart.1=アジカンとの2マンライブの感想について。必ず発売中の本誌最新号のライブリポートを読んだ上で(必ずですよ!)このインタビューを読んでくださいね!

インタビュー&文=吉川尚宏

●  ●  ●  ●  ●

――まずはアジカンとの2マンライブについて。当日のMCで小出君が「みなさんが思っている以上に感慨深いんですよ」とおっしゃっていましたが、終えて今はどんな感触がありますか?

小出 本当に感慨深かったですね。でもこの感慨は、“アジカンもベボベもずっと聴いてました! その2組の対バンが遂に実現しました!”というお客さんの喜びと、ちょっと違うものかもしれないですよね。というのも、2000年代初頭に下北沢ギターロックブームというムーブメントがあって、そこから世に出て行ったバンドがたくさんいまして。アジカンはもちろん、今回残念ながら対バンが実現しなかったACIDMANもそうだし(同ツアーの初日=7月20日にKT Zepp Yokohamaで対バン予定がACIDMANのメンバーが新型コロナウイルスに感染されたことを受け、主催者判断で中止に)、フジファブリックやART-SCHOOLやレミオロメンやストレイテナーがメジャーに進んで。そんな頃に僕らは下北の新人として活動を始めたんですけど、僕らのようなド新人からするとアジカンはその時点で下北沢SHELTERを満杯にするバンドだったので、すでに雲の上の存在なわけですよ。

――なるほどね(笑)。その段階で超メジャークラスという印象だったわけだ?

小出 そうです。とっくにスターなんです。それで、今名前を挙げたバンドたちが全国区になってから、下北のギターロックムーブメントが下火になって冬の時代を迎え始めるんですよ。その影響を、ブームの最後尾で活動していた僕らがもろに食らっちゃって(苦笑)。“あの熱はどこに行ったの?”というぐらいに冷え込んでいったんですよね。その中で僕らはどうにかもがいて、数年してメジャーデビューまでこぎ着けることができた。アジカンの喜多(建介)さんや伊地知(潔)さんが「わりと近い時期から下北にいたよね?」と半ば同志的な感じで言ってくれたりしたんですけど、僕らからしたら「いやいや、全然違うんですよ」と(苦笑)。「そのときの僕らはそんなレベルじゃないんです!」という感じで。そこからずっとバンドを続けてきて、今も残っているという意味で同志的に思っていただけているのであれば、それはものすごくうれしいことなんですけど。実際のところは背中を追いかけていたという憧れの存在でしたし、下北から全国区のロックバンドになっていく現象も遠くからですけど見させていただいて、一つの目標にさせていただいたバンドだったので。

――確かに普段からアジカンとベボベがわかりやすく交流していたらお客さんの見え方もまた少し違ったんでしょうけど、今話してくれた距離感は本当に当事者じゃないとわからないですよね。

小出 きっとわからないと思います。自分たちの原点である、下北のライブハウスシーンの歴史にも繋がるような話でもあるので。そういうのもひっくるめて感慨深かったですね。

――そういう中で、03年に新宿ロフトで初めてイベントで共演した際に、小出君がアジカンのメンバーに手渡した自主制作盤のことをゴッチ(後藤正文)がちゃんと覚えてくれていたというのはとても光栄な話だよね!

小出 そう! しかもそれを今も持ってくれているってすごい話ですよね! あのMCで僕も初めて知ったので、ものすごくうれしかったですね。

――そして念願が叶った今回の2マンでのアジカンのセットリストも素晴らしかったよね!

小出 ね! しっかりとした王道のセットリストで。後藤君曰く「小出君のMCを引用するなら“冷やし中華”のセットリストをこの夏のフェスでやってきてたから、今日はきっちり“ハンバーグ”で」と(笑)。

――なるほど(笑)。序盤に「Re:Re:」「リライト」「ソラニン」という代表曲を披露して、最新アルバムから「You To You」と「触れたい 確かめたい」を、そして最新シングルの「出町柳パラレルユニバース」を挟んだ後に「荒野を歩け」を経て最後に代表曲の「君という花」で締めるというこの展開!

小出 イベントでの理想的なセットリストですよね。押さえておくべきものはきっちりと押さえておいて、かつ新曲もやるという。僕らもそうで、ときにはイベントで“冷やし中華”ばかりをやりたくなる日もあるんですよ(笑)。その感覚もすごくよくわかるし。あるいは同じ“ハンバーグ”でも“デミグラスソース”じゃなくて今日は“おろしハンバーグ”がいいなとか(笑)。

――ハハハ(笑)。ありますよね(笑)。

小出 あるいは“チーズハンバーグ”とかね。そうやっていろいろとソースを変える日もあるわけで。そういう中で今回の2マンでは“これぞアジカン!”なステージを見せてくれて。

――うんうん。しかも小出君とゴッチのMCがいずれも2バンドが出会った頃のエピソードと当時の下北の音楽シーンに触れる話が多くあったので、なおさら初期の代表曲を交えたアジカンのセットリストに深い意味と特別な表情を感じて、それはベボベのセットリストもそうで、すごく新鮮で感動しましたね!

小出 ライブを終えた後にSNSとかで“今日のセトリはこうでしたー”と紹介したとしても、それだけではきっと伝わらないあの日の夜の空気感というか、セットリストの文字面以上のお互いのムードとモードが溶け合ったイベントだったと思うから、そういうステージがやれたことが本当によかったです。

――しかも、なんと言っても最大のハイライトはアンコールでベボベの3人にアジカンの喜多君が加わって4ピースで披露した「ループ&ループ」でしょ!

小出 あれはMCでも言った通り喜多さんの参加が本当に2日前に決まったんですよね。エンジニアの中村さん(中村研一氏。2バンドのレコーディングを担当)がアジカンサイドに話をしてくれて。

――アンコールで「ループ&ループ」をカバーすること自体は先に決めていたと?

小出 そうです。3ピースアレンジにして……アレンジといっても主に僕のパートなんですけど(笑)、喜多さんと後藤君のフレーズを混ぜたものを考えて、リハして。結構ちゃんと3ピースっぽくなってたと思うんですけどね。

――それはそれで聴いてみたかったですね(笑)。

小出 で、そこから急遽ありがたいことに喜多さんが参加してくれることになったので、僕のパートを原曲の後藤君パートに準拠して。そして当日を迎えて、その瞬間はもううれしさと興奮が入り混じって最高の気分で楽しく演奏ができたんですけど、そのときの音源を後日聴いてみたら、ステージで鳴らしている瞬間は興奮していたのもあってあんまりわからなかったんですけど、僕らと演奏している喜多さんのギターがほんとに“アジカン!”という感じなんですよ! まあ当然なんですけど(笑)。

――まあね(笑)。

小出 でもそれがすごく印象に残ったというか、喜多さんのおかげでアジカンっぽくなってる。喜多さんのギターが“アジカン感”を強く生み出しているんじゃないかなと感じて。ライブの約一週間後に僕らの新曲の歌録りがあって、そこで中村さんと会ったときにこの話をしたんですよ。そしたら本当にそうみたいで、他のメンバーのみなさんは機材が変わっても、喜多さんだけは基本のシステムが昔からずっと変わってないらしいんですね。アンプがボグナーで、メインのギターがレスポールというのが。

――うんうん。確かに喜多君がレスポール以外を弾いているところは見たことがないですね。きっとそのシステムが好きなんだろうね。

小出 喜多さんがアジカンのシグネチャーというか、もちろんメンバー全員でアジカンの音楽を生み出しているわけですけど、その中でも喜多さんのあの音色が“アジカン感”を強く醸し出しているという。それを身をもって体験させていただきました。

――それはね、昔アジカンのインタビューで他の3人のメンバーが同じことを言ってたんですよね。“アジカン=喜多君”なんだよねと。彼のギターがアジカンの代名詞というか、“アジカン=建ちゃん(喜多)のギター”と言ってもいいと思うみたいなことを、確かゴッチも言ってたことがあって。

小出 へー、そうなんだ!

――だから制作では建ちゃんのアイデア待ちという場面もあるみたいなんだけど、それがハマらないとアジカンにはならないと。最終的な決め手は建ちゃんのギターなんだよねと言ってた記憶がありますね。

小出 なるほど!

――その感覚を喜多君と一緒にプレイして、小出君がリアルに感じたということだよね。

小出 本当にそう思いましたね。バンドの印象がリードギターによって演出されているというのがものすごく興味深く思いましたし。しかも今の話を聞いてアジカンのみなさんもそれを自覚されているというのも良い話だなと。

――自分たちの強みをしっかりと理解しているというかね。それに建ちゃんはアジカンのリーダーでもありますからね! まあでも今の話はこちらもすごく興味深く感じましたし、僕も両バンドを長く取材してきましたが、アンコールでのレアセッションも含め、2マンライブ自体の素晴らしさはもちろん、MCで初めて知るエピソードもたくさんあって、観ていてこちらも最高に楽しかったですね! そんなアジカンとの夜を含め、この対バンツアーの企画は3回目だったわけですが、過去2回ともまた違った手応えが確実にあったのでは?

小出 ありましたね。ACIDMANとのライブが中止になったのが残念でしたけどね。

――そうか! ACIDMANが実現していたら下北ギターロックシーンの思い出との繋がりがさらに増していたわけだ!

小出 そうなんですよ。まさにACIDMAN始まりのアジカン終わりという形は僕らからしたらめちゃめちゃエモい展開だったんですよね。ACIDMANは僕らと同じ下北沢GARAGE出身のバンドなので。だから中止になっちゃったのが本当に惜しまれますけど、いつかまたご一緒させてもらえたらと思います。今回の「LIVE IN LIVE~I HUB YOU 3~」は自分たちの原点との邂逅でもありつつ、ほとんど接点のなかったCreepy Nuts(8月1日 Zepp Nagoya)とフレデリック(8月24日 Zepp Fukuoka)にも刺激をもらったし、仲良くなるきっかけにもなったしで、ほんとに実りある対バンツアーでした。

【part:2は10月31日(月) 17時に公開予定!!】


photo by toya

Base Ball Bear release

New Digital Single《2022.10.12》
「海になりたい part.3」
https://baseballbear.lnk.to/umininaritai3

New Single《2022.11.10》
「海になりたい part.3」(日本武道館会場限定盤)
NCS-3014 / \1,000(税込)

20th Anniversary 「(This Is The)Base Ball Bear part.3」
11月10日(木) 日本武道館
開場 18:00/開演 19:00
料金 7,700円(税込)
●e+ https://eplus.jp/bbb/
●ローソンチケットhttps://l-tike.com/
●チケットぴあ https://t.pia.jp/
お問い合わせ ディスクガレージ / 050-5533-0888(平日12:00~15:00)

SUPER BEAVERの表紙巻頭号=21年7月号の未掲載インタビューを公開!!

Talking Rock!21年7月号で初の表紙巻頭を飾っていただき、7月10日&11日に横浜アリーナで開催した本誌創刊25周年記念の主催イベント『Talking Rock! FES.2021』では見事大トリのステージを務めてくれたSUPER BEAVER。

そのライブ写真とリポートはもちろん、貴重なオフショットや終演直後のインタビューなども含め大感動の2日間を掲載した本誌21年9月号は絶賛発売中ですが、そんな彼らは現在、今年2月のアルバム『アイラヴユー』に伴うツアーのZeppバージョン=『SUPER BEAVER『アイラヴユー』Release Tour 2021〜愛とラクダ、15周年ふりかけ〜』と、ホールバージョン=『SUPER BEAVER『アイラヴユー』Release Tour 2021〜圧巻のラクダ、愛のマシンガン〜』を終えて、ライブハウスバージョンの『都会のラクダSP 行脚 ~ラクダフロムライブハウス~』を展開中!

秋にはアリーナツアー『SUPER BEAVER 都会のラクダSP 〜愛の大砲、二夜連続〜』も開催するわけですが、21年7月号のインタビューで僕がホールツアーの香川公演(5月9日、高松レクザムホール)に足を運び、そのときの感想をメンバーと交わしつつも、その時点ではまだそのホールツアーが数カ所残されていたので、その話は後日HPでアップしますと記載! そして新型コロナウイルスの感染拡大で延期となった、同ホールツアーの最終公演=8月11日&12日のTACHIKAWA STAGE GARDENも無事に終了! 少し時間が経ちましたが、その本誌未掲載インタビューをこの編集長ボイスでアップします!

一連のツアーの中で彼ら=写真右から柳沢亮太(g)、渋谷龍太(vo)、藤原“33才”広明(ds)、上杉研太(b)の4人が感じている『アイラヴユー』の手応えと共に、彼らが今どんな想いでこのコロナ禍でのツアーを行っているのかをぜひ感じ取ってください! (21年7月号の“後日HPでアップします”のくだり=P19の2段目あたりにそのままはめ込んだイメージで以下のテキストを読んでください!)

インタビュー&文=吉川尚宏 撮影=後藤倫人

●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●

――僕はホールツアーの香川公演=21年5月9日の高松レクザムホールに寄らせていただいたんですけど、そこでもまさにこの『アイラヴユー』のジャケットのポーズの世界観が具現化されたライブを体感して。少し具体的に触れると、そのホールツアーの1曲目がアルバム『アイラヴユー』と同じく「今夜だけ」で、そのアルバムのインタビュー(本誌21年3月号に掲載)でも、この曲で始まることの意味合いがすごく大きいという話があって。この曲を手掛けた柳沢君は「一歩も前に進んでないし、かと言って後ろにも下がってないという、鬱屈としたモヤモヤ感のある楽曲が久々にできて。ただ、それを歌うのが今の自分たちに相応しいのか?という疑問も生じて“こういう楽曲があってもいいよな”という気持ち半分、“いや、どうなんだろう?”という気持ち半分でいた」と。だけど渋谷君は「すごく人間臭い曲だなと思ったし、しかも“頑張れ”という言葉は使ってないけど、聴いた人の気持ちを強く奮い立たせる曲なんじゃないか」と感じたと。

渋谷 まさにそうですね。

――そして、上杉君も「何かがぶっ刺さる感じがあるし“この言葉を言ってくれてありがとう!”となる人がきっと多くいると思った」と。藤原君も「これを歌われたら“待ってた!”と思う人がたくさんいるだろうし、これを最初に歌うことで、その後の曲がより強く響くんじゃないかと感じた」と言ってたんですね。まさにそういうアルバムだったし、ライブの1曲目で「今夜だけ」を披露したときも、今の言葉通りの存在感とエネルギーを感じて……香川に来たお客さんはSUPER BEAVERのライブから勇気とパワーをもらいたいわけですけど、そういうお客さんたち自身のことをまず最初にこの曲で歌ってくれている感じがしたんですね。

柳沢 あー、なるほど!

上杉 すごくよくわかる!

――そこで一気に4人とお客さんとの距離が縮まって、まるで同じステージにいるような気持ちになれた気がしたんですよね。

渋谷 ものすごくよくわかります! SUPER BEAVERの楽曲って、もろ個人にガツンとぶっ刺さる曲がほとんどだと思うし、俺自身もライブ中は一人一人にぶっ刺しにいってるんですよ。ただ「今夜だけ」はそういう意識を持たなくても、勝手にぶっ刺さるのがわかっていて。それだけ聴いてくださる人の気持ちに近い曲だなと感じて。だから一人一人に刺しにいくというよりは、大きく広く前を見ながらどっしりと構えて精魂込めて歌うことに集中しているという、その感覚は俺もライブをやっていて初めてのことなんですよね。

柳沢 確かにこの曲に関しては演奏することや歌うことに特化しながら鳴らしている感覚がありますね。今までならこういうスローやミドルテンポな曲でも多少なりとも飛ばしていた気がするんですけど、いい意味で“音楽”としてグッとそこにあるというか。今までのSUPER BEAVERにはあまりなかった始まり方ができている気がしますね。

上杉 ある種、ホール公演だからこそやれる形でもあるかもしれないという。

――うんうん。確かにホールという広がりのある空間がこの曲の内省的だけど秘めた強い想いがあるという心情とマッチしていて深くて強い熱を引き出しているというかね。並行で開催しているライブハウスバージョンはまたセットリストが違うってことだもんね。

渋谷 しかも、その「今夜だけ」で放ったエネルギーがアンコールまでちゃんと繋がっているのをすごく感じて。それがものすごく新鮮でもあって。

上杉 そう! まさにさっきのアルバムインタビューの話にもあったように、他の歌の聴こえ方もすごく変わって、その後の曲がさらにパワーアップした形で届けられている手応えがあるんですよね。

――うんうん。だからさっき藤原君が話してくれた、『アイラヴユー』の曲たちをツアーでやっていく中で感じた手応え……「今までの曲たちともすごく自然に並べられるアルバムだなと感じていて。今のバンドにとても馴染んでいて、なおかつ新しいという、すごく純度の高い作品が作れたんだなと感じている」という言葉が、そのままこのホールツアーを観た僕の感想の一つでもあるんですよね。今までのすべての楽曲を含めて『アイラヴユー』の世界が披露されているとでもいうか。

藤原 それはホールツアー前のZeppツアー(『SUPER BEAVER 『アイラヴユー』Release Tour 2021〜愛とラクダ、15周年ふりかけ〜』)のときから感じたことでもあって。より自分たちらしく作れたアルバムであり、自分たちの伝えたいことが音楽の中でさらにできるようになってきているんだなと。しかも古い曲と混ざっても温度差をまったく感じないから、俺たち自身がずっと芯がブレずにやってこれてるんだなというのを実感しながらやれているツアーでもありますね。

――そして、もう一つ強く印象に残ったのが、コロナ禍で状況が変わって、ホントに久しぶりにSUPER BEAVERのライブを観たという人たちも多くいたと思う中で、その香川公演でも渋谷君がいちばん最初のMCで告げた「本当によく来てくれました」という言葉にコロナ禍以前とは全然違った意味合いが生まれていて。その一言できっとお客さんはすごく安堵したと思うんですよね。

渋谷 まさにその言葉に関しては今までとは別の意味合いがもう一つできちゃった感じですね。時間を作ってお金を払って来てくださったことに関しての感謝は常日頃ずっと感じつつ、それ以上のものを見せたいと考えていつもやっているわけですけど、その一つ前の段階でライブに行っていいのかいけないのかという謎の選択肢が……もはや謎ではなくなってきてますけど、それができちゃったので、その大きな関門を突破した上で時間とお金を割くことを決めて来てくださった人たちなわけで。会場に来てからも、何か罪悪感というか、落ち着かない気持ちでいる人もいらっしゃると思うんですよ。それを考えると、少なくとも俺たちは本当にうれしいんだと思っていることは事実だから、そこはちゃんと伝えてあげないとなと。この4人が心底喜んでいるというのは正義だと思うから、「あなたはマジで間違ってないんだよ」と全面的に言ってあげたいなと。そこは毎回めちゃくちゃ強く思ってますね。

フジファブリック 「あなたの知らない僕がいる feat.秦 基博」インタビュー

2年2カ月ぶりのニューアルバム『I Love You』を3月10日にリリースしたフジファブリック! そのアルバムのメンバー全員インタビューを最新号=21年4月号増刊に掲載していますが、情報の解禁日の都合により、7曲目に収録の「あなたの知らない僕がいる feat.秦 基博」に関するインタビュー部分のみ未掲載にしていました。山内総一郎(vo&g)が8年前に秦 基博のアルバムレコーディングにギターで参加。それ以来の友人である秦君と今作でコラボすることになった経緯と、その楽曲について、山内君の言葉をお伝えします! 本誌の記事の後半の楽曲解説の流れにそのままはめ込んだイメージでぜひ読んでください!

インタビュー&文=吉川尚宏 撮影=森好弘

●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●

――そして7曲目が「あなたの知らない僕がいる feat.秦 基博」です!

山内 秦君とは随分前からの友達で。彼と出会ったきっかけは、秦君が一度アルバムのレコーディングに僕を呼んでくれたんですよ。

――『Signed POP』(13年1月)ですよね。その中の「ひとなつの経験」で山内君がギターで参加されて、それが初対面だったと。(本誌13年3月号増刊に秦 基博のインタビューを掲載。その中でその経緯について秦君が話してくれています。バックナンバーをチェック!)

山内 そうです。そこからちょくちょく食事に行ったりもして仲良くしていて。で、すでにお話ししましたように、今回女性ボーカルのお二人(3曲目の「赤い果実feat.JUJU」と4曲目の「たりないすくないfeat.幾田りら」)にオファーさせてもらっていたので、同年代の男性ボーカルとコラボするのもおもしろいんじゃないかなという話になって。そこから秦君の顔が不意に浮かんできて、電話をして。「今、アルバムを作っているんやけど、よかったら一緒にやってくれない?」と伝えたら「ぜひやりたい!」と言ってくれて。そこから曲を作り始めた感じですね。

――じゃあ、他のコラボの2曲と同じく、秦君と一緒に歌うことを頭に置いて作ったと?

山内 そうです。今回のコラボの3曲はいずれも参加いただいたみなさんの名前までを含めて一つの曲名なんですよ。「あなたの知らない僕がいる」が曲名ではなくて、「あなたの知らない僕がいる feat.秦 基博」までがそうであると。3曲ともそういう気持ちで作りました。で、秦君とのコラボをイメージする中で、いろんな曲が思い浮かんだんですね。ワイワイとした感じの賑やかな曲だったり、二人で少しユニークに掛け合う曲だったり。でも今回のアルバムは正々堂々と『I Love You』というタイトルを面と向かって掲げたわけだから、素晴らしいシンガーソングライターであり、バラードの王者でもある秦君と同じく面と向かって歌い合えたらものすごくいいんじゃないかなと思えてきて。それでこの曲をピアノで作って秦君に送ったら「めちゃくちゃいい!」と言ってくれて。コラボすることになりました。

――実際に秦君とレコーディングしてみてどうでしたか?

山内 とにかく素晴らしかったですね! JUJUさんもそうですし、幾田さんもそうですけど“私のボーカルを聴いてほしい”とか“僕のボーカルを聴いてくれ”じゃない人たちなんですよね。その曲の世界をしっかりと体に吸収した上で、その曲にマッチした自分の歌を披露する。そしてその曲をさらにいいものに仕上げてくれるというか、そういう懐の深さと心意気を感じて。特に秦君は友達だからこそ、そこがすごくリアルに伝わってきて、本当に“恐れ入りました”という感じでした(笑)。バンドとソロアーティストだったり、音楽性の違いもあったりするわけですけど、同じ器の中に入れたときに、お互いの色もきちんと存在していて、すごくいい曲になったなという手応えがものすごくありますね。しかも、この曲自体が本当に……言葉で説明するのが少し難しくて。きっかけはほんまにライターを家で見つけたんすよ。

――あ、そうなんだ。歌い出しにある“ホコリが被った鞄の中に/何時か貰った白のライター”ですね。

山内 そう。そこからバッと世界が広がって。この曲で表現したかったのは、今まで生きてきて、もしも自分に突然明日が来なくなったときに、自分が選択して歩んできたここまでの人生はほんまに正解だったと言えるのかな?と。何の間違いもなく過ごしてこれたと思えるのか?と自分に問いかけたときに“わからない”という気持ちになったんですよ。すごく強く生きてきたつもりなのに、どうしたらいいのかがわらなくなる自分がいる……。人間の強さや弱さだったり、生きる理由や生まれた理由とかもわからないままきっと僕らは生きていて、その中でいろんな選択を繰り返しつつ、強く生きようとしている自分もいれば、弱さだったり後悔を感じている自分もいる。どれが正解で不正解かなんて決めるのはなかなか難しいわけですけど、だからこそ、その両方を肯定して受け止めたいという想いを込めて作った曲なんですよね。それが自分なんだと。そう信じて前に進もうよと。実は僕はこの曲を泣きながら書き上げたんですよ(苦笑)。いろんな想いが重なって。だからそんな強い想いがこもったこの曲を、同世代の友人である秦君と歌えたことで、救われた気持ちにもなりましたし、秦君のおかげで本当にすごくいい曲になったなと思うので、聴いてくださるみなさんにも何か温かいエネルギーを感じてもらえる曲になってくれたらうれしいです。