祝・20周年&3度目の武道館公演開催直前企画 Base Ball Bear 小出祐介 Interview part.2

アジカンとの2マンライブについて語ってくれたインタビューpart.1に続いて、Base Ball Bear小出祐介のインタビューpart.2です!  ここでは10月12日に配信リリースされた新曲「海になりたい part.3」についてと、11月10日に行われる3度目の日本武道館公演に向けての意気込みを聞いています! バンド結成20周年イヤーの最後の日に開催される11月10日の彼ら3度目となる日本武道館公演にぜひ足を運んでくださいね!

インタビュー&文=吉川尚宏

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――そんな対バンツアーを経て、バンド結成記念日の前日であり、バンド結成20周年イヤーの最後の日でもある11月10に10年ぶり3度目の日本武道館公演が行われます! そしてその前に結成20周年の締め括りにして始まりを告げる最新デジタルシングルを10月12日にリリース! タイトルが「海になりたい part.3」で、武道館もある意味“part.3”なわけですが、そこも意識しつつこの曲を手掛けた感じですか?

小出 これはもう最終的にそうなったというか、タイトルもそうだし、サビの頭が“海になりたい”で始まるのも最後の最後に決めた感じでして。今回、歌詞を書くのがなかなか大変だったんですよ。というのも、いつもならざっくりとだけど“アルバムはこういうふうにしたい”みたいなテーマやゴール設定があって、そこに向かって制作を進めていくんですけど、今回は手元の紙資料にもあるように“20周年イヤーのシングル”という企画が先にあって。配信で出した後に会場限定CDで販売することや、そこに収める他の曲のアイデアも早々にあったので(高校時代に制作した楽曲「チェンジアップ」の再録バージョンを収録!)、そういう企画に対して全然無関係な新曲を書くのも変じゃないですか(笑)。

――まあそうだよね(笑)。

小出 だから20周年に相応しいものを書かなきゃいけないのかな?というプレッシャーがある中で作り始めて。どういうものがいいのかなと。最近あんまり作ってなかった惚れた腫れたのラブソングや青春がどうのこうのという曲を作ればいいのかな?と思って“恋愛”や“青春”を頭に置いて考え始めたんですけど、マジで何も浮かばなくて、これは困ったなと(苦笑)。そうこうしているうちにリズム録りやギター録りの日が来てしまって。その期間中にフレデリックとアジカンとの対バンライブもあったから、そっちに気持ちをシフトしつつも、やはり気になって福岡と大阪にいる間もずっと悩んで考えていたんですよ。で、その頃に“そもそもBase Ball Bearって何なんだろう?”と考え始めたんですね。“どういうものがBase Ball Bearっぽいのかな?”と考えていく中で、よく“文学的な歌詞”と言われることがあるんですけど、そう言われるのなんか嫌なんだよなあと。文学に失礼じゃないかなと思っちゃうんです。

――ああ、なるほど。

小出 文学へのリスペクトがあるから恐れ多いというか。小難しい歌詞を“文学的”と言っているだけじゃないかと思っちゃうんですよね。逆に、文学に詳しい人は僕の歌詞を読んで、わざわざ文学的とは言わないんじゃないかと。そんなことがきっかけで、今回の制作中に、10代から20歳前後にかけて読んでいた文豪たちの作品をいくつか読み直してみたんです。自分の中の文学を見つめ直そうと。その中で三島由紀夫の作品を久々に読んだんですよ。すると昔は読んでも正直あんまりわかってなかったのが、30代後半になって読む三島由紀夫がものすごくよくて“これはまさに文豪だわ”と。“黒澤映画”を観て“これは巨匠だわ”と言ってるようなもんなんですけど(笑)。

――ハハハ(笑)。

小出 本当に感動したんですよ。内容ももちろんなんだけど“こんな文章を書ける人間がいるのか!”みたいな。

――確かに三島由紀夫の文章は美しくて綺麗ですごく整っていますからね。

小出 そう! そういう文学・文芸の力をひしひしと感じて、なおさら“文学的と言ってくれるなよ!”という気持ちになって。

――なるほどね(笑)。

小出 自分の歌詞が文学的と言われるのは恥ずかしい、おこがましいにも程があるみたいな気分になって。“二度と文学的と言ってくれるなよ!”と思ったからこそ、あえて今回の曲の歌詞に“文学”という言葉を入れていて。

――そうなんだよね! 入っているよね。“踏み込むペダル/歪む文学”。

小出 文学と言われたくないからこっちから先に言ってやろうと。

――ハハハ(笑)。なるほどね。

小出 これなら言われないだろうと。そう思えた瞬間からやっと歌詞が進み始めて、どうやって今回のテーマと繋げて形にしようかと考えたんですね。逆説的になりますけど、自分がもしも文学に匹敵するような何かをやっているのだとしたなら、もちろん言葉だけでも伝わるものを書こうとはしているんですけど、音と合わせた総合的な表現になるわけですよ。

――うんうん。小説家ではなくてミュージシャンというか音楽家だからね。

小出 そう、音楽なんですよ。音と合わせるのが音楽。だけど、もしこれを文学という線でいうならば、アンプにぶっ刺してデカい音でドカスカやっているそれが、自分なりの文学=”歪む文学”なのかなと思えてきて。で、結局一周して“文学的”を肯定しちゃってるんですけど(笑)、そこからバンドをやっている子の話にしようと思ったんですよ。だから最初は『CYPRESS GIRLS』(10年9月)に収録の「BAND GIRL’S SPIRAL DAYS」の男の子版にしようと思ったんですね。

――ああ、なるほど!

小出 「BAND BOY’S OVERDRIVE BUNGAKU DAYS」という仮タイトルで歌詞を書き始めましたね。

――へー! そうだったんだ! しかもバンドの話だから20周年にもきちんと繋がる内容になるしね。

小出 そうなんです。これならうまくハマりそうだなと思って。だからライブハウスに出ている景色みたいなところから歌詞が始まっていくんですけど、ただバンドをやっているだけの話だとネタが浅いしベタ過ぎるかなと。そこで、惚れた腫れたの要素を掛け合わせようとするんですね。バンドをやっていて自分が好意を寄せている女性がライブを観に来ていて……みたいな。よくある設定なんだけど、そういうところから攻めてみようと。“君に届け!”みたいな感じで書いてはみたんですけど、途中から“そんな曲、作りたくねえー”と思って(笑)。

――ハハハ(笑)。

小出 なんか安っぽくて(笑)。せっかくそこまで進んだのにまた筆が止まったんですよ。書いては消して書いては消してが今回ものすごくて、いろいろ考えてぐるぐる回って何度も試行錯誤を繰り返した結果、ようやく一つの視点にたどり着いたんです。それは何かというと、自分はバンドを20年続けてきてこれだけたくさん曲を書いてきたのに、それでもまだいいものがあるだろうと思い続けているんですよね。もっといいものが作れると思っている。だけど、ゴールがどこにあるのかはわからないんですよ。当て所もないんだけど、もっと作りたい、もっとあるんじゃないかと思って書いているという、これ自体がもしかしたら一つの恋なんじゃないかというところに思い至って。自分が音楽をやるとか、たくさん曲を書く、詩を書くという音楽への当て所もない恋心みたいなものと、バンドを組んでいる男の子が好意を寄せている女性に対して“君に届け”と思っている気持ち……歌詞は山ほど書くのに携帯でメッセージを打つのはできない、だから曲にするみたいな。そういうシチュエーションとエナジーを重ね書きしていったんですね。

――あー、なるほどね!

小出 で、それらをまとめるフレーズは何なんだろう?と思ったときに、非常に漠然として曖昧なんだけど“海になりたい”という言葉に繋がっていったんですよね。

――なるほど! 濃いね! 僕はそもそも「海になりたい part.3」というタイトルの曲を作る気で作ったのかなと勝手に思っていたんだけど(「海になりたい」を05年3月の『HIGH COLOR TIMES』に、「海になりたいpart.2」を09年9月の『(WHAT IS THE) LOVE & POP?』に収録)全然違うんだ。

小出 全然違うんですよ。ここまで長く話した通り、ものすごく迂回した先にたどり着いた「海になりたい part.3」なんですよね。しかもさっきも言った通り“海になりたい”のフレーズを最後の最後まで当ててなかったんですよ。最初は全然違うフレーズで。レコーディングの当日の朝まで歌詞を書いて、メンバーとスタッフにLINEで“とりあえずこういうふうに上がったんだけど”と送ったら、みんなから“サビの入り口がちょっと”みたいな返信があって。それは懸念してはいたんです。ただ散々考えてこのテーマで落ち着いたので、根こそぎ変えるのは無理だと思いながらスタジオに行ってディレクターとあらためて話をして。ちょっと時間をもらって一人でブースに入って最後の詰めを考えて、そこで “あ、“海になりたい”なら入るな”と。そっか、これを言えばいいのかと思って。“海になりたい”というフレーズに全部が集約されると、そこまでの制作過程で感じてはいたんですね。それでサビに“海になりたい”を入れて、タイトルも「BAND BOY’S OVERDRIVE BUNGAKU DAYS(仮)」から「海になりたい part.3」になったという。ちなみにpart.1である「海になりたい」がバンドを組んだ女子高生の話で、そこから派生してできたのが「BAND GIRL’S SPIRAL DAYS」なんですよ。

――あー、なるほど!

小出 「“海になりたい”ってどういう意味なんですか?」と聞かれても、僕もわからないんですよ。でも“海になりたい”という言葉が持つイメージや響きに詩としての情感を感じていて。このフレーズの持つ不思議な奥行きを追求するためには、こうやって何個もバリエーションを作る必要があるんですよね。「海になりたい」も「海になりたい part.2」もきっと意味が違うと思うし、今回の「海になりたい part.3」もまた意味が違うんだけど、“海になりたい”というフレーズが包み込んでいるっていうのは共通していますよね。

――うんうん。“海になりたい/あふれるサイダー/暗闇と踊る/君に捧ぐよ/マイ・ハート/踏み込むペダル/歪む文学/轟いてくれ/この恋は終わらない”というサビに、ここまで語ってくれたこの曲に関する話がほとんど集約されているよね!

小出 この“踏み込むペダル”も音楽をやっている人目線ではエフェクターを踏み込むことだと思うんでしょうけど、それがわからない人は、自転車をイメージするかもしれないし。

――そうそう。それは僕も思いました。

小出 あるいは車のアクセルかもしれないし、バイクかもしれないし。

――うんうん。そして“歪む文学”も音楽として捉えたら歌詞や歌のことだと思えるんだけど、そうではない人にとっては、例えば自分が好きな人にその想いを伝えたくて考えた言葉が、あふれる想いにもみくちゃになって歪んだ状態に取れなくもないと。

小出 まさにそうです。

――そして、さっきの話にあった、誰かに届けたい想いを形にするべくいくつも曲を書いてきて、20年を迎えてもいまだにもっといいものがあると思い続けていることが“永遠に続く/片想いだとしても”に繋がるわけだ!

小出 そういうことですね。

――素晴らしい! お見事です!(笑) ちなみに個人的には“点滅してる/縦の青い線が隔てた”/“「あ」「い」のあとには/どう続けりゃいいんだ”の表現がすごいなと思って。最初“点滅してる/縦の青い線”って何だろう?と思って、すぐに“あ! 携帯で文字を入力するときのあの縦の線の点滅だ!”と思って。

小出 そうそう。

――これはすごい表現だなあと。

小出 ありがとうございます!

――そしてその“「あ」「い」”の後に当てはまる言葉が“会いたい”なのか“愛してる”なのか“愛してた”なのかね!

小出 そう。いろいろあると思う。

――あるいは“あいみょん”なのか(笑)。

小出 ハハハ(笑)。可能性もあるよね(笑)。

――あるいは“aiko”とかね(笑)。

小出 あるいは“アイーン”かもしれない(笑)。

――ハハハ(笑)。いやー、これは素晴らしい表現の曲だと思います! “青いラブレター/放り投げた空/届いてくれ/この心象風景”というフレーズだけでもう1曲作れる気がしてもったいないと思うくらいだし(笑)。

小出 ハハハ(笑)。ありがとうございます!

――そして最初に言っていたバンドの20周年にも繋がる内容だし、この先に向けての一つの誓いにも感じる印象もあるしね。

小出 “海になりたい”という、つまり“何々になりたい”と言ってる段階でまだ何かになろうとしているわけで。まだまだ音楽への想いが尽きないということを表現する意味でもいいかなと思いましたね。

――うんうん。さらに言うと武道館公演の前に出すことで“武道館のステージに立って目の前に広がるみんなの景色を強く包み込むぐらいの海になりたい”という想いが込められているのかなとも感じられるし。過去2作の“海になりたい”をも踏襲しつつという完璧な構成と展開です! とはいえここにたどり着くまではとても長く大変だったと(笑)。

小出 本当に難産でした。1カ月以上考えてましたからね。コスパが悪いですよ(笑)。ただ最終的には自分でやりたいと思ったことがクリアできたのでよかったなと思いましたし、あらためて作詞の奥深さみたいなものを自分でも感じて。トーキングロック!から詩集を出させていただいていますけど、この曲が書けてあらためて詩人としてもさらに頑張ろうと思いましたね。

――なるほどね! さらにいい作品を期待していますので! そして3回目の日本武道館公演が待っています! 実は前回から10年も空いてるんだよね?

小出 そうなんですよね。まあでも1回目(10年1月3日)と2回目(2012年1月3日)はほとんど記憶にないというか(苦笑)。

――特に1回目が小出君の中で全然納得できる内容ではなくて、それがしばらくトラウマになったとも言ってましたしね。

小出 2回目の武道館もそうで、ほぼ本番のことは何にも覚えてなくて。2回とも映像作品を出しましたけど(10年3月の『LIVE;(THIS IS THE) BASE BALL BEAR. NIPPON BUDOKAN 2010.01.03』、12年4月の『10th Anniversary tour (This Is The) Base Ball Bear part.2「Live 新呼吸」2012.01.03 NIPPON BUDOKAN』)、いずれもまったく観てないんですよ。それくらい手応えがなかったんですよね。1回目はデビューからの勢いのまんま武道館でやらせていただいたという感じで、まったく実力が伴ってなかったし、本番中は頭が真っ白でライブをやった気にもならなかったですね。2回目の武道館も、終えて楽屋に戻って当時のマネージャーと交わした一言目が「自分たちなりの武道館というのがまだもっとあるね」だったんですよ。その2回目のタイミングはライブプロデューサーの人に入ってもらって、ずっとライブのやり方を模索していた頃で。それからしばらくライブ迷子の時期が続いて20代後半はずっと悩んでいた感じだったんですね。今では3ピースになって丸々6年が経って、7年目に入っていますけど、いろいろ頑張ってきた中で、やっと自分たちに自信が持てている感じなんですよね。今回もまだどうなるかわからないし、ドキドキはしますけど、武道館に飲み込まれて味わう余裕もなかった過去2回とは違って、ようやく初めて武道館というものが味わえるんじゃないかなと。まだやってみないとわからないけれど、やっと武道館と真正面から向き合える気がするというか。

――やっと対等に立てるというかね。

小出 そう! デビューからの勢いの中で挑むイベントではなくて、20年やってきたからできる自分たちからのチャレンジなんです。それが前2回とは全然違います。たぶんストロングスタイルのライブになると思うし、当日武道館に来てくれた人たちは自分たちにとっての宝ですからね。もちろん来れない人も、行かない判断をした人にも大リスペクトです。みなさんに感謝をしつつ、この20年で到達した今のBase Ball Bearをしっかりと披露して目撃してもらおうと、そういう気持ちですね。

 

Base Ball Bear release


▲New Digital Single《2022.10.12》
「海になりたい part.3」
https://baseballbear.lnk.to/umininaritai3


▲New Single《2022.11.10》
「海になりたい part.3」(日本武道館会場限定盤)
NCS-3014 / \1,000(税込)

 

20th Anniversary 「(This Is The)Base Ball Bear part.3」
11月10日(木) 日本武道館
開場 18:00/開演 19:00
料金 7,700円(税込)
●e+ https://eplus.jp/bbb/
●ローソンチケットhttps://l-tike.com/
●チケットぴあ https://t.pia.jp/
お問い合わせ ディスクガレージ / 050-5533-0888(平日12:00~15:00)

祝・20周年&3度目の武道館公演開催直前企画 Base Ball Bear 小出祐介 Interview part.1

Base Ball Bearが今夏開催した対バンツアー『Base Ball Bear TOUR「LIVE IN LIVE~I HUB YOU 3~」』の最終公演=8月26日のZepp Osaka BaysideでのASIAN KUNG-FU GENERATIONとの2マンライブリポートを現在発売中のTalking Rock!22年11月号に掲載! その記事の最後に記したように、後日小出君とオンラインで、その当日の感動と10月12日に配信リリースされた新曲「海になりたい part.3」についてと、11月10日に行われる3度目の日本武道館公演に向けての意気込みをお聞きし、リポートの後にコメント掲載するつもりでしたが、ガッツリと話し込んでロングインタビューになってしまい(苦笑)、ページが全然足りなくなったので、このホームページに2度に分けてアップします! まずはインタビューpart.1=アジカンとの2マンライブの感想について。必ず発売中の本誌最新号のライブリポートを読んだ上で(必ずですよ!)このインタビューを読んでくださいね!

インタビュー&文=吉川尚宏

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――まずはアジカンとの2マンライブについて。当日のMCで小出君が「みなさんが思っている以上に感慨深いんですよ」とおっしゃっていましたが、終えて今はどんな感触がありますか?

小出 本当に感慨深かったですね。でもこの感慨は、“アジカンもベボベもずっと聴いてました! その2組の対バンが遂に実現しました!”というお客さんの喜びと、ちょっと違うものかもしれないですよね。というのも、2000年代初頭に下北沢ギターロックブームというムーブメントがあって、そこから世に出て行ったバンドがたくさんいまして。アジカンはもちろん、今回残念ながら対バンが実現しなかったACIDMANもそうだし(同ツアーの初日=7月20日にKT Zepp Yokohamaで対バン予定がACIDMANのメンバーが新型コロナウイルスに感染されたことを受け、主催者判断で中止に)、フジファブリックやART-SCHOOLやレミオロメンやストレイテナーがメジャーに進んで。そんな頃に僕らは下北の新人として活動を始めたんですけど、僕らのようなド新人からするとアジカンはその時点で下北沢SHELTERを満杯にするバンドだったので、すでに雲の上の存在なわけですよ。

――なるほどね(笑)。その段階で超メジャークラスという印象だったわけだ?

小出 そうです。とっくにスターなんです。それで、今名前を挙げたバンドたちが全国区になってから、下北のギターロックムーブメントが下火になって冬の時代を迎え始めるんですよ。その影響を、ブームの最後尾で活動していた僕らがもろに食らっちゃって(苦笑)。“あの熱はどこに行ったの?”というぐらいに冷え込んでいったんですよね。その中で僕らはどうにかもがいて、数年してメジャーデビューまでこぎ着けることができた。アジカンの喜多(建介)さんや伊地知(潔)さんが「わりと近い時期から下北にいたよね?」と半ば同志的な感じで言ってくれたりしたんですけど、僕らからしたら「いやいや、全然違うんですよ」と(苦笑)。「そのときの僕らはそんなレベルじゃないんです!」という感じで。そこからずっとバンドを続けてきて、今も残っているという意味で同志的に思っていただけているのであれば、それはものすごくうれしいことなんですけど。実際のところは背中を追いかけていたという憧れの存在でしたし、下北から全国区のロックバンドになっていく現象も遠くからですけど見させていただいて、一つの目標にさせていただいたバンドだったので。

――確かに普段からアジカンとベボベがわかりやすく交流していたらお客さんの見え方もまた少し違ったんでしょうけど、今話してくれた距離感は本当に当事者じゃないとわからないですよね。

小出 きっとわからないと思います。自分たちの原点である、下北のライブハウスシーンの歴史にも繋がるような話でもあるので。そういうのもひっくるめて感慨深かったですね。

――そういう中で、03年に新宿ロフトで初めてイベントで共演した際に、小出君がアジカンのメンバーに手渡した自主制作盤のことをゴッチ(後藤正文)がちゃんと覚えてくれていたというのはとても光栄な話だよね!

小出 そう! しかもそれを今も持ってくれているってすごい話ですよね! あのMCで僕も初めて知ったので、ものすごくうれしかったですね。

――そして念願が叶った今回の2マンでのアジカンのセットリストも素晴らしかったよね!

小出 ね! しっかりとした王道のセットリストで。後藤君曰く「小出君のMCを引用するなら“冷やし中華”のセットリストをこの夏のフェスでやってきてたから、今日はきっちり“ハンバーグ”で」と(笑)。

――なるほど(笑)。序盤に「Re:Re:」「リライト」「ソラニン」という代表曲を披露して、最新アルバムから「You To You」と「触れたい 確かめたい」を、そして最新シングルの「出町柳パラレルユニバース」を挟んだ後に「荒野を歩け」を経て最後に代表曲の「君という花」で締めるというこの展開!

小出 イベントでの理想的なセットリストですよね。押さえておくべきものはきっちりと押さえておいて、かつ新曲もやるという。僕らもそうで、ときにはイベントで“冷やし中華”ばかりをやりたくなる日もあるんですよ(笑)。その感覚もすごくよくわかるし。あるいは同じ“ハンバーグ”でも“デミグラスソース”じゃなくて今日は“おろしハンバーグ”がいいなとか(笑)。

――ハハハ(笑)。ありますよね(笑)。

小出 あるいは“チーズハンバーグ”とかね。そうやっていろいろとソースを変える日もあるわけで。そういう中で今回の2マンでは“これぞアジカン!”なステージを見せてくれて。

――うんうん。しかも小出君とゴッチのMCがいずれも2バンドが出会った頃のエピソードと当時の下北の音楽シーンに触れる話が多くあったので、なおさら初期の代表曲を交えたアジカンのセットリストに深い意味と特別な表情を感じて、それはベボベのセットリストもそうで、すごく新鮮で感動しましたね!

小出 ライブを終えた後にSNSとかで“今日のセトリはこうでしたー”と紹介したとしても、それだけではきっと伝わらないあの日の夜の空気感というか、セットリストの文字面以上のお互いのムードとモードが溶け合ったイベントだったと思うから、そういうステージがやれたことが本当によかったです。

――しかも、なんと言っても最大のハイライトはアンコールでベボベの3人にアジカンの喜多君が加わって4ピースで披露した「ループ&ループ」でしょ!

小出 あれはMCでも言った通り喜多さんの参加が本当に2日前に決まったんですよね。エンジニアの中村さん(中村研一氏。2バンドのレコーディングを担当)がアジカンサイドに話をしてくれて。

――アンコールで「ループ&ループ」をカバーすること自体は先に決めていたと?

小出 そうです。3ピースアレンジにして……アレンジといっても主に僕のパートなんですけど(笑)、喜多さんと後藤君のフレーズを混ぜたものを考えて、リハして。結構ちゃんと3ピースっぽくなってたと思うんですけどね。

――それはそれで聴いてみたかったですね(笑)。

小出 で、そこから急遽ありがたいことに喜多さんが参加してくれることになったので、僕のパートを原曲の後藤君パートに準拠して。そして当日を迎えて、その瞬間はもううれしさと興奮が入り混じって最高の気分で楽しく演奏ができたんですけど、そのときの音源を後日聴いてみたら、ステージで鳴らしている瞬間は興奮していたのもあってあんまりわからなかったんですけど、僕らと演奏している喜多さんのギターがほんとに“アジカン!”という感じなんですよ! まあ当然なんですけど(笑)。

――まあね(笑)。

小出 でもそれがすごく印象に残ったというか、喜多さんのおかげでアジカンっぽくなってる。喜多さんのギターが“アジカン感”を強く生み出しているんじゃないかなと感じて。ライブの約一週間後に僕らの新曲の歌録りがあって、そこで中村さんと会ったときにこの話をしたんですよ。そしたら本当にそうみたいで、他のメンバーのみなさんは機材が変わっても、喜多さんだけは基本のシステムが昔からずっと変わってないらしいんですね。アンプがボグナーで、メインのギターがレスポールというのが。

――うんうん。確かに喜多君がレスポール以外を弾いているところは見たことがないですね。きっとそのシステムが好きなんだろうね。

小出 喜多さんがアジカンのシグネチャーというか、もちろんメンバー全員でアジカンの音楽を生み出しているわけですけど、その中でも喜多さんのあの音色が“アジカン感”を強く醸し出しているという。それを身をもって体験させていただきました。

――それはね、昔アジカンのインタビューで他の3人のメンバーが同じことを言ってたんですよね。“アジカン=喜多君”なんだよねと。彼のギターがアジカンの代名詞というか、“アジカン=建ちゃん(喜多)のギター”と言ってもいいと思うみたいなことを、確かゴッチも言ってたことがあって。

小出 へー、そうなんだ!

――だから制作では建ちゃんのアイデア待ちという場面もあるみたいなんだけど、それがハマらないとアジカンにはならないと。最終的な決め手は建ちゃんのギターなんだよねと言ってた記憶がありますね。

小出 なるほど!

――その感覚を喜多君と一緒にプレイして、小出君がリアルに感じたということだよね。

小出 本当にそう思いましたね。バンドの印象がリードギターによって演出されているというのがものすごく興味深く思いましたし。しかも今の話を聞いてアジカンのみなさんもそれを自覚されているというのも良い話だなと。

――自分たちの強みをしっかりと理解しているというかね。それに建ちゃんはアジカンのリーダーでもありますからね! まあでも今の話はこちらもすごく興味深く感じましたし、僕も両バンドを長く取材してきましたが、アンコールでのレアセッションも含め、2マンライブ自体の素晴らしさはもちろん、MCで初めて知るエピソードもたくさんあって、観ていてこちらも最高に楽しかったですね! そんなアジカンとの夜を含め、この対バンツアーの企画は3回目だったわけですが、過去2回ともまた違った手応えが確実にあったのでは?

小出 ありましたね。ACIDMANとのライブが中止になったのが残念でしたけどね。

――そうか! ACIDMANが実現していたら下北ギターロックシーンの思い出との繋がりがさらに増していたわけだ!

小出 そうなんですよ。まさにACIDMAN始まりのアジカン終わりという形は僕らからしたらめちゃめちゃエモい展開だったんですよね。ACIDMANは僕らと同じ下北沢GARAGE出身のバンドなので。だから中止になっちゃったのが本当に惜しまれますけど、いつかまたご一緒させてもらえたらと思います。今回の「LIVE IN LIVE~I HUB YOU 3~」は自分たちの原点との邂逅でもありつつ、ほとんど接点のなかったCreepy Nuts(8月1日 Zepp Nagoya)とフレデリック(8月24日 Zepp Fukuoka)にも刺激をもらったし、仲良くなるきっかけにもなったしで、ほんとに実りある対バンツアーでした。

【part:2は10月31日(月) 17時に公開予定!!】


photo by toya

Base Ball Bear release

New Digital Single《2022.10.12》
「海になりたい part.3」
https://baseballbear.lnk.to/umininaritai3

New Single《2022.11.10》
「海になりたい part.3」(日本武道館会場限定盤)
NCS-3014 / \1,000(税込)

20th Anniversary 「(This Is The)Base Ball Bear part.3」
11月10日(木) 日本武道館
開場 18:00/開演 19:00
料金 7,700円(税込)
●e+ https://eplus.jp/bbb/
●ローソンチケットhttps://l-tike.com/
●チケットぴあ https://t.pia.jp/
お問い合わせ ディスクガレージ / 050-5533-0888(平日12:00~15:00)